「特定秘密の保護に関する法律案」に反対する(声明)

「特定秘密の保護に関する法律案」に反対する(声明)

2013年10月22日
図書館問題研究会
委員長 中沢 孝之

 図書館問題研究会は、住民の学習権と知る自由を保障する図書館の発展を目指して活動する図書館員、住民、研究者などで構成される個人加盟の団体である。当会は、国民の知る自由、知る権利を保障する責務を負う図書館に関わる立場から、「特定秘密の保護に関する法律案」(以下「本件法案」という)に強く反対する。理由は以下のとおりである。

 日本国憲法は国民主権の原理に基づき、この国民主権を実質化するためには、表現の自由及び知る自由、知る権利の保障が不可欠である。とりわけ、国政について国民が十分な情報を享受したうえで政治参画することは国民主権にとって前提である。このような国民主権原理に基づく知る権利と、国家秘密は基本的に対立するものであり、それが認めうるとしても極めて謙抑的かつ限定的でなければならない。また、一定期間が経てば公開され、秘密の指定を含めて国民の審判を仰がなければならないものである。

 しかし、本件法案においては、対象となる「特定秘密」の範囲が広範かつ不明確である。本件法案別表において、防衛、外交、外国の利益を図る目的で行われる安全脅威活動の防止、テロ活動防止の4分野が挙げられているが、いずれも限定性に乏しく対象が広範かつ不明確である。また、行政機関の長の判断により秘密指定が可能となっており、指定の妥当性をチェックすることが困難である。同様に、指定の期間延長や解除を含め、制度運用の妥当性、適切性を担保する仕組みが何ら明らかにされていない。
 また、本件法案では「特定秘密」の漏えい及び取得行為について、過失、未遂、共謀・教唆を含め、従来に比して著しく重い罰則を定めている。こうした重罰化は、「特定秘密」の範囲のあいまいさと相まって、取材・報道を萎縮させ、国民の知る自由、言論・表現の自由を実質的に制限するものとなりかねない。
 これらのほか、そもそも立法事実がないこと、適性評価制度によるプライバシー侵害等も問題である。

 当会は図書館に関わる立場として、理念的な点のみで反対を表明するものではない。図書館が収集、提供する資料が「特定秘密」に指定され、提供した図書館職員が処罰の対象となることも考えられるためである。
 本件法案の「特定秘密」は、当然公務員の守秘義務の範囲である実質秘を前提としていると考えられる。非公知かつ秘密として保護する必要があると認められる実質秘の情報が含まれる資料が、一般に公開されることを前提とする図書館資料として収集、提供されることはない、と考えられるかもしれない。しかし、国立国会図書館所蔵の『合衆国軍隊構成員等に対する刑事裁判権関係実務資料(検察提要6)』(検察資料158)(以下、「当該資料」という)の閲覧制限要請事件(以下、「閲覧制限事件」という)は、図書館資料に対して「特定秘密」が指定される可能性を示している。当該資料は、重要でない米兵の犯罪につき実質的に第一次裁判権を放棄するとした1953年の法務省刑事局長通達などを含んでおり、国会図書館は古書店より購入して蔵書とし、利用に供していた。この閲覧制限事件では、2008年5月下旬に法務省が国立国会図書館に対し、報道等により内容が公知のものとなっていた本件資料につき、利用禁止とOPAC(オンライン蔵書目録)情報の削除を要請した。その理由は、非公開資料であり、「公共の安全と秩序の維持」及び「米国との信頼関係」に「支障を及ぼすおそれがある」ためとされた。
 当該資料は、要請時点では既にその内容が報道され、公知のものとなっていたが、法務省は閲覧禁止要請を行なった。国会図書館は要請を受け入れて閲覧制限を行なったが、2010年2月には閲覧制限を解除している。
 この閲覧制限事件における法務省の要請は、図書館で提供している資料が後付けで「特定秘密」に指定され、これを提供した図書館職員が処罰される可能性を示している。(過失であっても)「特定秘密」の提供に刑事罰が伴なう本件法案の立法化により、防衛、外交等に関する灰色文献(非商業出版資料)や行政資料の図書館における収集、提供の萎縮をもたらし、国民への情報提供という図書館の責務を損なうことにつながりかねない。

 また、現在自衛隊法による防衛秘密は公文書管理法の適用除外となっているが、本件法案における「特定秘密」も適用除外となる可能性が高い。最小限の国家秘密を指定するとしても、その関係文書は適切に保存し、その内容、秘密指定の妥当性など後世の検証を待たなければならない。そうでなければ、国家の秘密は国民から永久に秘匿され、そのアカウンタビリティや正当性が担保される機会は失なわれることとなる。しかし、本件法案にはこのような制度的保障がない。

 報道によれば、政府は国民の「知る権利」や「報道・取材の自由」への配慮を明記するなどの修正を加えたうえで法案を国会へ提出するとされている。しかし、前述した本件法案の問題点が、そうした表面上の努力規定によって払拭されるとは到底考えられない。

 現在、わが国に求められているのは、国や地方自治体の情報をより積極的に公開・蓄積し、透明性の高い政治・行政を実現し、国民主権、民主主義を実質化させることである。図書館は、国民への資料提供、情報提供をいっそう進める中でその一翼を担わなければならない。本件法案はこうした動きに逆行するものであり、その立法化に強く反対する。

以上