今後の神奈川県立図書館に関する検討についての意見書(神奈川支部)

2012年12月20日

神奈川県知事
黒岩 祐治様

今後の神奈川県立図書館に関する検討についての意見書

図書館問題研究会神奈川支部
支部長 三村敦美

 向寒の候 貴職におかれましてはますますご清祥のこととお慶び申しあげます。
 図書館問題研究会(以下、当会)は図書館職員や住民を中心とするの個人加盟の全国組織で、神奈川支部(以下、当支部)は神奈川県内で図書館に関する研究活動や学習活動を行っております。
 さて、2012年11月8日付読売新聞等に「神奈川県立図書館の2図書館、閲覧・貸し出し廃止を検討」という記事が掲載されました。その中には、神奈川県立図書館と県立川崎図書館(以下、県立図書館。個別に述べる必要があるときのみ分けて表記します)を都道府県立図書館としては初めて閲覧も直接貸出もしない図書館とし、さらに県立川崎図書館を廃止し神奈川県立図書館と統合する、という方向で検討されているとあり、非常に驚いております。
 当支部では、2012年7月にも、「県緊急財政対策本部調査会」(以下、神奈川臨調)の中間報告に対して意見書を提出させていただきました。しかしながら、今回の報道の元となった「県民利用施設の検討の方向性に関する説明資料」では、県立図書館が我々の思いとは正反対の方向で検討されていることに、強い失望と危機感を覚えます。ただ、12月6日の神奈川県教育員会(以下、県教委)との懇談会では、まだ内容は正式には決まっていないというご説明いただきました。
 ここに改めて今回の状況を踏まえ、神奈川県内で活動する図書館関係団体といたしまして、意見並びに要望を述べさせていただきたいと存じます。

1.閲覧禁止問題
1)閲覧禁止は法律違反であり、資料の死蔵につながる
 市町村立図書館を通じて借りればよい、ということですが、県立図書館にはこれまで貸出を行っていない新聞や雑誌、辞典などの参考図書、郷土資料、規格関係資料、特許関係資料などがあり、一部は貸出可能かもしれませんが、大半は形態的にも機能的にも貸出は難しく、閲覧もできないとなれば、これまでの蓄積のかなりの部分が使うことのできない資料と化してしまいます。
 また、浮世絵やベストセラー文庫など特殊なコレクションについても同様です。県民の貴重な財産がこのような形で死蔵されるのは、文化的面でも教育的見地からも大きな損失といえるでしょう。
県教委が県内市町村立図書館の館長を集めた会議での資料や、先述の懇談会での資料でも「公立図書館の設置及び運営に関する望ましい基準」を引用して、住民の閲覧も含む直接利用が県立図書館の役割であることを明記しています。
 そもそも「図書館法」では、
「第二条  この法律において「図書館」とは、図書、記録その他必要な資料を収集し、整理し、保存して、一般公衆の利用に供し、その教養、調査研究、レクリエーション等に資することを目的とする施設」
とあり、閲覧できない資料が大量に発生することは、「図書館法」に反する行為だと言わざるを得ません。さらに言えば、国民の知る権利を侵すという意味では、憲法にも反するものとも言えるでしょう。

2)市町村の負担増
 県立図書館では、年間40万人を超える利用者がありますが、その利用を全て市町村に振り分けるとすると、宅配便等を使った相互貸借の量が格段に増えることが見込まれます。まして、時代を遡って調査を行うような場合、大量の資料を借りる必要があります。これに要する費用や手間は市町村の図書館にのしかかってくるのです。機能分担、役割分担は時代の流れの中で必要かもしれませんが、閲覧まで禁止という発想は、県民への負担が増すだけでなく、市町村の図書館の負担増も招きます。市町村も神奈川県と同様、あるいはそれ以上に財政難であることはご承知のとおりです。このような措置は、市町村への負担の押し付けと言えるでしょう。

2.県立図書館の持つ意味
1)神奈川県に図書館は足りているのか
 神奈川県立図書館がある横浜市と東京23区を比較してみます。

項目

横浜市

東京23区

図書館数

18館

223館

図書館一館当たりの住民数

201,167人

38,202人

貸出数

10,868千点

76,993千点

住民一人当たりの貸出数

3.0点

9.0点

住民数

3,621千人

8,519千人

 図書館一館当たりの住民数で5.3倍、住民一人当りの貸出数で3倍の開きがあります。このように見てくると、神奈川県最大の横浜市においては、東京23区と比較して著しく図書館サービスが不足していることがわかります。県立図書館は県内図書館のバックアップ図書館であるとともに、貴重なサービスポイントでもあるのです。横浜市中央図書館の存在や、川崎市の新中原図書館の建設は、県立図書館が貸出を行わない理由とはならないのです。
 また、県内市町村立図書館の資料費の経年変化をみると、1999年度から10年間で約7億円、横浜市ではほぼ半減となっており、いずれも大幅な減となっています。

年度

横浜市資料費

全県資料費

1991年度

313,175千円

1,690,124千円

1999年度

527,870千円

1,701,833千円

2009年度

251,723千円

1,133,152千円

2011年度

241,382千円

1,014,950千円

※2011年度は横須賀市が「光を注ぐ交付金」を利用したため実際より少なくなっている。これらの出典は「神奈川の図書館」(神奈川県図書館協会発行)の各年度版による。
 これらの数字からも、また人口当たりの図書館数においても全国で最下位となるなど、県内市町村の図書館が充実した、とはとても言えない状況であることは一目瞭然でしょう。

2)図書館のネットワーク
 県立図書館は県内市町村の図書館とネットワークを組んでいるだけではなく、大学図書館、企業図書館、県立高校図書館などとのネットワークを進めてきており、情報の共有化と資料の有効活用が徐々に充実してきています。
 しかしながら、ここで県立図書館が閲覧禁止、直接貸出禁止ということになれば、このようなネットワークが十分機能しなくなる恐れが多分に出てきます。切れてしまったネットワークはもう単なる「点」の集合にすぎません。県立図書館が機能を「純化」させることは、かえって情報の共有化や資料の有効活用が後退してしまいます。

3.直接サービスの重要性
 それでは、市町村立図書館が十分に充実した時、県立図書館における直接サービスは無意味なのでしょうか。
 例えば、病院を考えてみると、都道府県立の病院は地域の基幹病院として高度医療を担うだけではなく、実際の医療を通して培われたノウハウを地域の医療機関に伝えるという役割も果たしています。
 直接サービスは、サービスのノウハウを蓄積する手段であるとともに、高度な技術を実際の応用の中で磨く貴重な場でもあるのです。外来患者も受け付けず、実際の患者も診ない医療機関が、他の医療機関従事者に研修が行えるのでしょうか。
 また、資料の選択においても、直接利用を体験したり、それを分析したりするところから、「選ぶ感覚」が磨かれるものです。直接サービスを廃止することは、高度な資料を選ぶことすら難しくしてしまいます。

4.要望
 我々はこのような状況を踏まえ、貴職に次の点を要望するものです。

1)貴重な資料を多く所蔵する県立図書館の閲覧機能を廃止せず継続してください。閲覧機能を廃止することで多くの資料が死んでしまいます。
 
2)市町村図書館への支援・研修を行うためには、県立図書館自身が高度なサービスを行なっていることが重要です。直接貸出の継続は必須です。直接貸出を継続してください。
 
3)人口の多い県としては図書館数が少なく、使いたくても使えない県民が多く存在します。県立図書館は先駆的な活動を行ってきましたが、住民一人当たりの図書館費は全国最低レベルです。コミュニティにおける教育や文化を担う施設としては、あまりにも貧弱といわざるを得ません。
 また、福祉や教育、文化に力を入れている国ほど実は国際競争力が高いという調査結果も出ています。目先のお金にとらわれず、百年先を見た政策作りを望みます。
 今必要なのは、県立図書館の機能縮小ではなく、県立図書館の機能強化と市町村図書館の振興政策です。県民参加のもと、県立図書館のこのような観点にたったグランド・デザインを作成してください。
 
4)既に県立図書館で策定された今後の県立図書館の在り方に基づき、市町村の図書館だけでなく、関係団体、県民を含めた討議を進めてください。

4.最後に
 今回の神奈川臨調の討議方向は、厳しい財源にどう対応するか、という目先の対応としか思えません。財政難に対し、出先機関や地域に点在する県の施設の廃止や見直しというような刹那的な措置では、いずれ破綻をきたすでしょう。
 欧米など先進国では、経常経費の中でも大きな割合を占める医療・介護費用については、コミュニティを再生し未病化を進めることにより、削減をはかろうとしています。日本においても、平成24年10月に開かれた日本未病システム学会学術総会で「地域コミュニティと未病」がテーマとなっています。図書館はコミュニティ再生のひとつの拠点であることは、ドイツや北欧諸国の実践でも明らかです。その拠点たる図書館機能を後退させるような今回の方向は、明らかに時代に逆行するものではないでしょうか。
 また、資源が少なく、また人口も減少しつつある日本において、今後最も重要な資源は人材だと言われています。それにも関わらず、学校教育と並んで社会での人材教育の場の一つである図書館の設置については、先進国の中では最も遅れた国の一つであり(10万人当たり図書館数:日本は2.3館、G7平均は6.4館)、また人口当たりの公務員数についても先進国中最も少ないという状況があります。
 また、新しい学習指導要領でも図書館の活用が明文化されています。財政難を理由に、子どもたちの学ぶ権利が阻害されてはならないと思います。
 どうぞ貴職におかれましては、県民へのサービスを軽視し、貴重な資料や人材を損なうような内容について見直しをしていただき、今一度原点に立ち帰り、県民を交えて透明性の高い場で十分な議論をされることを、強く望みます。