神奈川県立図書館の再整備に関するアピール

2018年8月13日

 図書館問題研究会神奈川支部は、神奈川県立図書館の再整備に関し、神奈川県知事と神奈川県教育長への要望書を提出しました。また、広く多くの方に知っていただくため、同趣旨のアピールをここに掲載します。

 図書館問題研究会神奈川支部では、2012年7月に、「県緊急財政対策本部調査会」(以下、神奈川臨調)の中間報告に対して意見書を提出させていただき、2012年11月には「神奈川県立図書館の2図書館、閲覧・貸し出し廃止を検討」という記事に関して意見書を提出させていただきました。
 その後、神奈川県の生涯学習部によって、県内の市町村立図書館の館長による検討会が開かれ、2016年7月には「県立図書館の再整備に向けた基本的な考え方(素案)」が公表され、パブリックコメントが実施されました。また、「県立図書館の再整備に関する意見交換会」を数度開催し、出席者から意見を求めております。
 このように、所定の手順を踏まれつつ粛々と進められておられますが、神奈川県立図書館のあり方は県民、市町村立図書館に多大なる影響を与え、長期的にみると今後の神奈川県の文化政策にも影響を与える事案であるにもかかわらず、県民や市町村図書館関係者の声が十分反映されていないと当支部では考えます。
 ここに改めて現在の状況を踏まえ、神奈川県内で活動する図書館関係団体といたしまして、意見を述べます。

神奈川県立図書館の再整備に関するアピール 

2017年2月5日
図書館問題研究会神奈川支部
支部長 三村敦美

 現在、神奈川県立図書館(この文書でいう神奈川県立図書館とは「神奈川県立図書館条例」で定める、神奈川県立図書館・神奈川県立川崎図書館の両者を指します。また、個別の図書館について述べる際には、「県立図書館」「県立川崎図書館」と表記いたします)の整備について、大詰めを迎えています。
 われわれ図書館問題研究会神奈川支部(以下、当支部)では、これまで2012年7月に、「県緊急財政対策本部調査会」(以下、神奈川臨調)の中間報告に対して意見書を提出し、2012年11月には「神奈川県立図書館の2図書館、閲覧・貸し出し廃止を検討」という記事に関して意見書を提出しました。
 その後、神奈川県の生涯学習部によって、県内の市町村立図書館の館長による検討会が開かれ、このような流れの中で、神奈川県内で活動する多くの団体や個人も意見を表明し、直接貸出をやめること、神奈川県立川崎図書館を廃止することに関しては、当初の方針が撤回されるなど、一定思いが伝わったかのように思われました。
 しかしながら、2016年7月には「県立図書館の再整備に向けた基本的な考え方(素案)」が公表され、パブリックコメントが実施されました。この素案は、県民、市町村立図書館が2012年以降に表明してきた今後の神奈川県立図書館像とは全く異なる方向で書かれており、また、「県立図書館の再整備に関する意見交換会」を数度開催したものの、とても納得できるものではありません。
 神奈川県はこの素案に沿って粛々と神奈川県立図書館の整備を進めていますが、多大なる影響を与え、長期的にみると今後の神奈川県の文化政策にも影響を与える事案であるにもかかわらず、これまでわれわれや多くの団体が出した意見や、県民や市町村図書館関係者の声が十分反映されていないと当支部では考えます。
 ここに改めて現在の状況を踏まえ、神奈川県内で活動する図書館関係団体といたしまして、以下にアピールを表明するものです。

1. 県立川崎図書館の処遇について
 当支部が最も危惧しているのが県立川崎図書館の処遇です。県立川崎図書館の今後については、意見交換会でもはっきりとしたビジョンが示されたとは思われません。そもそも県立川崎図書館は全国的にも類を見ない、専門図書館的機能を備えた公共図書館として高く評価されてきた図書館です。
 それにもかかわらず、意見交換会で示された神奈川サイエンスパーク(以下、KSP)に資料の一部を移転という方向性は、まったく問題にならないほど県立川崎図書館が理解されていない方針と言わざるをえません。
 県立川崎図書館は長年にわたり川崎市という地で、学術本、学術雑誌、特許資料、規格類、社史、灰色文献等の専門的な資料のほか、理工学系に子どもたちや青少年を誘うような資料群を構築してサービスを行ってきています。加えて神奈川県内の図書館はもちろん、神奈川県内の企業や専門図書館等と強く結びつき、専門性を活かした実績を上げてきた機関でもあります。
 県立川崎図書館はまとまった資料群と、それを縦横に活用できる司書がいてこそ価値のある施設です。これらの機能をより充実させていくことで、県立川崎図書館というブランド(=信用)を高めていくことが県民や市町村の図書館および関係団体等から求められています。ところが、現有資料すら移転できないKSPでは、先を読んだ十分な資料構築は不可能です。長年かけて築いてきたブランドでも、そこに常に新しい息吹を吹き込まなければあっという間に崩れ去っていきます。
 川崎市議会からも意見書が出されているように、改めてブランド価値を高めるような県立川崎図書館の在り方の検討を川崎市や県民と協議してください。

2. ビジョンなき県立図書館の方向性
 次に県立図書館について述べたいと思います。
 県が策定した「県立図書館の再整備に向けた基本的な考え方(素案)」の中に県立図書館の方向性が次のように書かれています。

< 基本とする県立図書館像 >
・専門的な図書・資料の収集・提供や利用者の課題解決を行う「専門的図書館」
・県内の図書館との相互貸借や市町村立図書館への支援を行う「広域的図書館」
< 新たに付加する県立図書館像 >
・本を介して人と人が交流し、学びを支援する 「価値を創造する図書館」
・建物の魅力を活かした、人を惹きつけ、人が訪れる 「魅せる図書館」

 この中で< 新たに付加する県立図書館像 >の2点が県立図書館にとって優先的課題なのかどうか、意見交換会での多くの方の発言でも疑問が呈されています。当支部でも大いに疑問があるところです。二次的な意味でこれらが備わることに異議はありませんが、これが県立図書館に優先的に備えるべき機能とはとても考えられません。もっと県民や市町村立図書館の意見を取り入れるべきです。
要望図
 次に「県立図書館の再整備に向けた基本的な考え方(素案)」にある県立図書館の配置図です(前のページの図)。計画では三つの建物に資料が分散して置かれ、それぞれに閲覧スペースがあるという、非常に非効率な配置となっています。まして現新館と図書館新棟の間には屋内連絡通路がなく、外を通って移動することになります。
 資料の利用は内容別に分けたにしろ、有機的に結びついており、様々な資料群を駆使することが図書館の持つ一次資料、二次資料を活用するということです。物理的にこれだけ離れた配置であるということは、資料をそれだけの距離を動かすということです。職員の労力、利用者の時間が無駄に浪費される施設構成といえるでしょう。
 現有施設をできるだけ使い、経費を抑えるという意図があるのかもしれませんが、貴重な資料や大きな資料、重い資料など様々な形態をもつ資料を分散させ人力で移動させるというのは、まったくナンセンスな発想です。近視眼的思考では文化政策は続きません。改めてビジョンから見直してください。

3. 形式的ではない「神奈川県立図書館今後のあり方」の検討方法について
 県民、市町村図書館と合議など民主的な方法で検討を行ってください。県民、市町村立図書館関係者などからなる第三者会議等を開く等、合議による合理的な検討を望みます。
 また、意見聴取の際も、県立図書館と県立川崎図書館に討議を分けることが見受けられますが、県が運営する図書館のあり方を考える時どちらかだけでは非効率かつ整合性をもつことができません。統合して検討してください。
これまで図書館界が積み重ねてきたサービスと研究からみて、県立図書館には、「県内の図書館振興」、「県民への情報提供、保存について立案、調整する」といった役割は欠かせません。この点について具体的に検討してください。
 図書館の力は資料の力、司書の力によって発揮されます。より高いレベルを求められる都道府県立図書館ではなおさら資料と人に予算を注入すべきです。ところが神奈川県においては、全国最下位レベルの資料費、半減した司書など、まったく逆行する流れとなっています。これを正すことこそ神奈川県立図書館の発展を約束する最短の手段に他なりません。
 神奈川県の人口規模は、 平成27年では約9,148千人で、これはノルウェー(4,883千人)、ニュージーランド(4,368千人)の約二倍あり、オーストリア(8,393千人)、スウェーデン(9,379千人)とほぼ同じレベルです(各国の数字は2011年度)。今検討されている神奈川県立図書館はそれにふさわしい図書館でしょうか。われわれは大いに疑問を持つところです。
 神奈川県としても様々な制約の中でこのような方向性を出してきたであろうことは想像できるところです。しかし、この計画では角を矯めて牛を殺すということにもなりかねません。どうか県民や市町村図書館等の意見を聞き、知恵を出し合ってよりよい神奈川県立図書館を作ってください。

連絡担当 図書館問題研究会神奈川支部事務局
〒251-0035 藤沢市片瀬海岸1-12-7-801
津田さほ

Posted by tmk