図書館を含む社会教育機関の首長部局への所管を可能にする「第9次地方分権一括法案」に反対します(声明)

2019年9月2日

2019年3月26日
内閣総理大臣 安倍晋三様
内閣官房長官 菅義偉様
内閣府特命担当大臣(地方分権改革) 片山さつき様
参議院議長 伊達忠一様
参議院 文教科学委員会 委員長 上野通子様
衆議院議長 大島理森様
衆議院 文部科学委員会 委員長 亀岡偉民様
文部科学大臣 柴山昌彦様
中央教育審議会会長 渡辺光一郎様

図書館問題研究会委員長 中沢孝之

図書館を含む社会教育機関の首長部局への所管を可能にする「第9次地方分権一括法案」に反対します

 私たち図書館問題研究会は、2019年3月8日に閣議決定された図書館法の変更を含む「第9次地方分権一括法案」に反対します。
 この法案は、「首長部局が社会教育機関を所管すること」を可能とすることを提案しています。
 こうした法改正は、戦後蓄積してきた社会教育法体系を根底から崩すもので、憲法第11条(基本的人権の享有)、第14条(法の下の平等)、第92条(地方自治の基本原則)に反していると考えられます。
また、中教審答申においても指摘されていた行政的な視点が優先され、学習に関する住民の自主性・自発性が阻害される危険性が生まれ、社会教育現場の専門性にもとづいた自由で自律的な社会教育が阻害されます。
 図書館は教育機関です。成人の学びは、政治的な内容も含むが故に、独立性が確保される必要があります。教育行政は政治からの独立性を確保することによって、個人の学びや、思想と表現の自由を守り、政治の介入を阻むことができます。
 図書館を首長部局に移管すれば、例えば住民が自治体の施策について学ぼうとする際、その自治体の施策の方針に反する内容の資料の提供制限が危惧されます。憲法に謳われている国民の権利「知る自由」を守る図書館の重要な役割が阻害されかねません。
 実際、資料提供への制限については2012年には『はだしのゲン』、2015年には『絶歌』の収集及び提供について首長等による介入や図書館における自主規制が問題となりました。図書館の首長部局への移管がすすめば、特定の資料の提供について、首長の意向を優先して制限されてしまう可能性が高まります。
 内閣府は「移管された当該地方公共団体においては、観光・地域振興分野やまちづくり分野を担う首長部局で一体的に所管できるようになり、社会教育のさらなる振興はもとより、文化・観光振興や地域コミュニティの持続的発展等に資する」とその理由を説明してます。しかし、教育委員会の所管で適切な予算措置を伴いその活動が高く評価されている図書館は数多くあり、首長部局との連携事業は教育委員会の所管でも十分に可能です。一方、今次の改正による移管により、観光・地域振興の名のもとで社会教育施設における個人の学びが後退するのではないかとの危惧も強くあります。
 中央教育審議会生涯学習分科会のまとめ(「公立社会教育施設の所管の在り方等に関する生涯学習分科会における審議のまとめ(案)」2018年7月配布資料)の中でも、政治的中立性及び継続性・安定性の確保、住民の意向の反映、学校教育との連携に関して、図書館協議会等の協議会や教育委員会が関与することで担保できることが述べられており、その法制化のプロセス等については詳細に検討する必要があると指摘しています。法体系上の整合性や、機構関係があいまいです。この担保措置についても法案では条例及び規則改正の際、教育委員会の意見を聞く以外に具体的な担保措置が述べられておらず、詳細に検討された形跡がありません。
 これまでの中央教育審議会論議、国民からの要望・パブリックコメントが反映されていない法案といえます。
 図書館の働きは、地域の資料の継承や、人を育てる営為を含み、永続的に地域社会に資する活動です。こうした教育活動は、学校教育と同様に教育委員会のもとで行なわれるべきだと考えます。法の理念を尊重し、図書館が思想表現の自由、知る自由を守る役割を十分に発揮できる機構の維持を求めます。

Posted by tmk